海外ミステリーの原題と翻訳の謎

海外作品は翻訳されて国内で販売されますが、必ずしも「原題」がそのまま翻訳されるとは限りません。
例えば、J・D・カーの"The Three Coffin"もしくは"Hollow Man"が翻訳された際、現在の「三つの棺」ではなく「魔棺殺人事件」というタイトルでした。
意味合いは同じですがそのままの直訳ではなく、翻訳者の感性が反映された結果だと思います。

ここではそのような翻訳者独特のタイトルセンスに迫るべく、様々な海外作品のタイトルの翻訳を考察していきます。
やることはただ一つ、「原題をgoogle翻訳にかけること」それだけです。
考察もへったくれもありません
翻訳者も訳しながら作品を読んでいるわけですから、作品の世界観等は当然理解している(はず)でしょう。
その作風に合った訳し方をしてくれている(はず)です。
そこを面白おかしく取り上げてみます。

対象とするのはタイトルのみ。
機械翻訳は柔軟な訳は期待できませんが、私自身にそれを補助する英語の知識がありませんのでそのまま放置です。
タイトル一つにしても原題と翻訳されたものでは雰囲気が異なるでしょうからそんなところを見ていきます。

原題をそのまま直訳した翻訳は基本的に取り上げませんが、気に入ったものは取り上げるかも。
また、個人の考えとして勝手な様々な解釈を書いていきますが事実かどうかは不明です。
あと英文法の知識はかつてほどない昔の記憶から引っ張り出したものですので間違っていると思います。(断言)

メソポタミアの殺人(アガサ・クリスティ)

原題:Murder in Mesopotamia
google翻訳:メソポタミアで殺人

新潮社文庫(藤沢忠枝訳)のタイトルは「メソポタミアの殺人」ですが、同じく所有の創元推理文庫(厚木淳訳)では「殺人は癖になる」とされています。
「殺人は癖になる」を翻訳すると"Murder becomes a habit"らしく、原題と似ても似つきません。
このような経緯になった理由が気になります。

殺すのが癖になるような犯人ではなかったように記憶していますので、なぜこのようなタイトルになったのか。

魔女の隠れ家(ジョン・ディクスン・カー)

原題:Hag's Nook
google翻訳:老婆のヌーク

創元推理文庫(高見浩訳)のタイトル「魔女の隠れ家」を英文にすると"Hideout of witch"ですが、原題は"Hag's Nook"という変化球。
"Hag's"が「老婆」という意味ですので、魔女と訳すにもそれほど違和感はないかと思います。
しかし"Nook"は「隅」という意味ですので、これを「隠れ家」とするのは直訳ではないでしょう。
「魔女の隠れ家」は、翻訳者が作風に合致するようにつけた創作タイトルであったようです。

原題を直訳は「老婆の隅」。
隅は隅でも"The Old Man in the Corner"の隅ではないらしい。

曲がった蝶番(ジョン・ディクスン・カー)

原題:The Crooked Hinge
google翻訳:曲がったヒンジ

魔女の隠れ家同様、本作もきっと創作タイトルなのであろうと思いきやそのままの直訳でした。
蝶番を翻訳すると"Hinge"とは知らなかった。

連続殺人事件(ジョン・ディクスン・カー)

原題:The Case of the Constant Suicides
google翻訳:定数自殺の事例

Suicidesが自殺、Constantが一定や定期的にという意味ですので、「一定自殺のケース」(もう少し砕けてつけるとすれば一定自殺事件、一定自殺の謎)というわけのわからない原題になります。
「連続殺人事件」とした理由はわかりませんが、英断だったということは間違いないでしょう。

連続殺人という単語自体、ミステリーではありふれていることもあり結構地味な気がする。

爬虫類館の殺人(カーター・ディクスン)

原題:He Wouldn't Kill Patience
google翻訳:彼は忍耐を殺すではないでしょう

原題を訳せば「彼がペインシェンスを殺すはずがない」ですが、舞台が動物園ならぬ爬虫類館に関連することから「爬虫類館の殺人」となったのでしょう。
C・ディクスン名義の作品は「~の殺人」と翻訳されることが多く、原題も"~Murders"が多いのが特徴ですが、原題の直訳の方がタイトルっぽくなくていいと思います。

木曜の男(G・K・チェスタトン)

原題:The Man Who Was Thursday
google翻訳:木曜日た男

創元推理文庫では「木曜の男」(吉田健一訳)と訳されていますが、光文社古典新訳文庫の南条竹則訳では「木曜日だった男」と訳されています。
意味合いはどちらも同様ですが、「~の」である場合と「~だった」である場合に違いがあり、現在か過去かに相違がありそうです。

"Who"は関係代名詞でこの単語自体に意味は訳に反映されない(はず)ので、"The Man"と"Was Thursday"を組み合わせた言葉が本来の訳になる(はず)です。
"Was"が過去形を示す単語であることを考えれば、原題を意識し意味を持たせる「木曜日"だった"男」が正しいように思える。
でも個人的に「木曜の男」の方が合っているような気がする。

赤毛のレドメイン家(イーデン・フィルポッツ)

原題:The Red Redmaynes
google翻訳:レッドRedmaynes

レッドにレッドが重なる赤いタイトル。
本作の知名度がやたら高いのはひとえに江戸川乱歩の推薦があったからのように思える。
そのため推理小説というよりも探偵小説として読むのが正しい。(乱歩も"探小"として扱っているし)

wikiによれば、井上良夫・橋本福夫・大岡昇平・宇野利泰・荒正人・赤冬子・安藤由紀子と、数々の翻訳家により訳された作品で、タイトルも一様に同様のものがほとんど。
"Redmaynes"を「レッドメイン」「レドメイン」「レッドメーンズ」とどのように訳すかの違いしかなく、"The Red"をすべて「赤毛」と訳しているところは共通。
最初に翻訳した井上良夫が「赤毛」としたからなのか、もしくは作品の主要人物が赤毛だったからなのかは不明。

そのまま訳せば「赤いレドメイン」ですが、赤毛という単語によりグッとタイトルっぽくなったように思えます。

殴られたブロンド(E・S・ガードナー)

原題:The Case Of The Black-Eyed Blonde
google翻訳:黒い目のブロンドの場合

ガードナーの原題は割と普通なのに翻訳されたタイトルが面白い。
その中でも気に入っているタイトルの一つ。

ハヤカワミステリ文庫版での表紙は、目の周りに痣のある金髪の女
翻訳者が作風にそぐわないタイトルをつけるとは考えにくいため、作中に登場するであろう女の特徴から、"black-eyed"を「目の周りの痣」と訳したのでしょう。
また、「殴られた」という単語から作中内で殴られて痣ができたのだと推測できます。

このようなひねくれたタイトルはどうしてそうなったかを推測してみるのが面白い。

メッキした百合(E・S・ガードナー)

原題:The Case Of The Gilded Lily
google翻訳:金ぴかリリーの場合

原題で見るとなかなか洒落たタイトルですが「金ぴか」がどことなくいまいち。
いかに"メッキ"という言葉が妥当で恰好がつくものであるかがわかる一作。

ヴィンセント・コーニアの短編に「メッキの百合」という作品がありますが関連性はあるのか。

この世の外から(クレイトン・ロースン)

原題:From Another World
google翻訳:別の世界から

原題がやけにかっこいい。
やっぱり英語だと箔がつく。
真相を読むとどこかしらがっくりときますが、脱出王ハリー・フーディーニの逸話とシンクロするというプロットが小気味よく、演出の仕方が抜群にうまい作品です。

「この世の外から」というタイトルの方が知名度があると思いますが、「あの世から」(常盤新平訳)という訳も存在します。
「あの世」とすると死後の世界のようで作風には合わないように思えますが、フーディーニが亡くなる直前に発言した"あの世からのコンタクト"と原題を二重にかけた翻訳かもしれません。
翻訳者の機転の利いた見事な訳だと思います。