THE 名探偵(ジョイノベルス)

いわゆる「名探偵」の活躍を描いた作品を集めたアンソロジー。
ミステリー作家であるならば、主人公の一人や二人を創造するのは当然の成り行き。
それらすべてを"名探偵"と呼ぶかはともかく、本作で収録された作品はどれもこれも古典作ばかり。
すでに読んでいた作品もありましたが、おおむね真新しい気持ちで読むことができました。

収録は以下となります。

  • 心理試験(江戸川乱歩)
  • 五人の子供(角田喜久雄)
  • 性痴(高木彬光)
  • 温室事件(福永武彦)
  • 灰色の手袋(仁木悦子)
  • 團十郎切腹事件(戸板康治)
心理試験(1925年「新青年」)

いわずともがなの有名な作品。
仁木悦子「粘土の犬」や二階堂黎人「密室のユリ」も本作と同様の趣向を凝らしており、探偵小説としての基本トリックなのでしょう。
倒叙形式により主人公の思考を直接感じ取ることができるというサスペンス感も持ち合わせています。
犯人は軽はずみな発言は慎むべきであり、また知っていることと知らないことを把握しておかなければならないということなのでしょう。

五人の子供(1947年「物語」)

名探偵=推理物という定石があるように思える中、本作も同様に(やや)本格物。
シムノンをイメージして創作したという作風は、状況証拠から推理するのではなく当事者の心理から謎に迫っている。
蓋を開ければなんてことはないが、現場の証拠と目撃した風景から推理した真実はなにげに物悲しい。
本作で使用されたトリックの類型として氷を使用したものを読んだことがありますので、本作が元ネタなのかもしれません。

性痴(1957年「講談倶楽部」)

意外と読みこぼしが多い神津恭介ものとして「性痴」では、男から精気とともに運気まで奪い取る女が殺害される。
結末への道がやや強引ではありますが、自己へ伸びかけていた魔の手に震えあがる神津を見る結構貴重な作品かもしれません。

温室事件(1957年「小説新潮」)

以前から読んでみたかった本作。
硝子張りの温室を舞台に構成された密室が本作最大の謎。
本作はおそらく加田伶太郎名義で執筆されたもので、主人公伊丹英典の由来は「名探偵」(MEITANTEI)のアナグラム。
密室にアリバイという本格要素をふんだんに用いた本作ですが、やはり温室内の状況を文字だけで判断することはなかなか難しく、密室トリックも正直よくわからん・・・。
犯人のアリバイも証人により確実ですが、そのすきを突いたあやふやさもいまいち説得力に欠けるような気もする。

灰色の手袋(1958年「宝石」)

本格物かつ犯人当ての要素を取り入れた本作。
推理の突飛がやや強引であるため、閃き一つで謎をすべて解いてしまうまさに名探偵ものにふさわしい作品ともいえます。
登場人物の動きとアリバイがやや複雑であり、やはり短編で処理できなかったのか、いくつかの謎が未解決のまま残っているのが気になる。

團十郎切腹事件(1959年「宝石」)

八代目市川團十郎の自刃の原因を推理する本作は、歴史ミステリーとしてその他収録作品と少し毛色が異なる。
wikiの内容と照らし合わせると、作中の瑠璃五郎・弥蔵・伝兵衛といった人物の真偽は不明ですが、大体のストーリーは実際の事件と符合して執筆されており、専門家であった作者ならではの作風といえます。
内容はそのタイトルに反して團十郎の切腹は軽く流す程度、推理の対象は宿場で消失した瑠璃五郎の行方とその理由を中心に展開していきます。
瑠璃五郎が消失した理由はともかく、老優中村雅楽が語る事件の真相はなかなか的を得ており、歌舞伎の世界や当時の風景に疎くても面白い作品です。