華やかな密室 京都殺人模様(山村美紗)

愛と女とサスペンスな作品ばかりかと思いきや、以外にもトリックを使用した作品が多い山村美紗の密室殺人くくり(かと思ったがそうでもなかった)の短編集。
あとがきによると、編集者との打ち合わせに作者自身何度かホステスを利用しており、女同士胸襟を開いた結果、本書を執筆する動機が生まれたとのこと。
京都のホステス界を舞台に、夜の蝶たちの熾烈なライバル関係と男女間の愛憎をからめているところが作者ならではといったところで、主人公(ヒロイン)にアルバイトホステスを起用し、共に働く正規ホステスたちの様々な職業事情を作中に取り入れており、信憑性を出すことに成功している。
現在では「キャバ嬢」もしくは「キャバクラ嬢」という名称のほうが一般的かもしれないが、ホステスと表現すると、静寂と大人な雰囲気の和服美人をイメージしてしまう。
ここらあたりにも京都ならではの語感があるのかもしれない。

収録された4作すべて連作となっており、すべて事件発生→調査・推理・→事件解決というオーソドックスな推理小説の流れをくんでいる。
時折作中に挟まれるホステス界でのルールや内事情が面白く、ホステスという特異な職業への興味をそそる。
特に、月に何度か同伴をしなければならないという「同伴義務」の存在は、やはりホステスという職業の過酷さ(意味深)を物語っている気がする。
その作品ならではの要素が含まれていると、その作者の体験を読んでいるような気がして面白い。

一方、肝心の密室トリックに関しては、機械的なトリックが多くそれほど新鮮さは感じなかった。
密室の必然性も感じられず、ただトリックをはめ込んだという印象が強い。
華やかという言葉は、密室よりも作中のホステスたちに贈ったほうがよさそうだ。

  • 華やかな密室
  • 夜の不死蝶
  • 死の同伴者
  • 花のアリバイ
華やかな密室

アルバイトホステス小川麻子(源氏名:マコ)が勤務する「花屋敷」のNo.2リリィが毒殺される。
死体が発見された部屋は密室であり、玄関の扉には鍵はもちろんのこと、ご丁寧にもチェーンがかけられていた。

密室トリックが機械的で理解しやすい分、事件全体を取り巻く人間関係が結構複雑に構成されている。
しかし、その人間関係にも多少の強引さが感じられ、、それほど親しくないホステス間同士で一緒にワインを飲むということ自体に違和感があるようにも思え、犯人がわざわざワイングラスを洗って現場に残すことのリスクも考慮されていない。
また、第二の殺人が少し無鉄砲すぎるきらいがあり、アリバイにも計画性は感じられない。
(第二の殺人は犯人の意図しないものであったため仕方がないが)
登場する狩野警部は山村美紗の常連探偵の一人、作者のサービス精神の一環ということか。

密室トリックは密閉方法ではなくチェーンの方。
チェーントリックの王道を行くものであり、今更ながら結構ユニークなトリックだと思う。

京都のホステスで最も忙しいのは土曜日らしく、逆に暇なのが月火らしい。
東京は週休二日制が多いため、土曜日は暇なことが多いそうだ。
現在では関西でも週休二日の企業もあるだろうから、土日祝日よりも平日のほうがホステスは繁盛するのかもしれない。

夜の不死蝶

有名医大の教授、通称「センセイ」とのパトロン関係から大きな収入を得ている「花屋敷」のホステスのジュリーが自宅で絞殺される。
ジュリーにはセンセイとは別に恋人がおり、その正体を誰にも話さなかったことから、マコは花屋敷の客であると推理する。

上記「華やかな密室」と同様、人間関係がやや複雑に構成されている。
本作は連続殺人を扱ったものであるが、その動機は不連続になっており、まったく異なる事件といった印象を受ける。
「監視カメラで見張られた部屋での密室殺人」というプロットは興味深いが、部屋やカメラの位置といった現場状況がわからないためか、イマイチイメージしにくい。
密室への出入りのトリックは結構斬新だが、少し調べればばれてしまうトリックをわざわざ使う犯人もいないだろう。

死の同伴者

「花屋敷」の専属ホステスだったゆかりが常連客だった会社社長と心中した。
明るく、物事を割り切る性格だったゆかりが自殺したことに疑いがもたれたが、心中したゆかりの部屋には鍵がかかっており、外部からの侵入は不可能だった。

本作には、会社社長AとAが世話になっている経営者Bが一緒に「花屋敷」にやってくる場面があり、Aは、自分がひいきしているホステス(お気に入りのという意味)をBの相手にしようとする。
これはいわば、自分の恋人を目上の人物の愛人にさせることと同じで、いかにも水商売らしい人間関係の描写だと思う。
女性的な表現のようにも思えるが、そこにあるのは水商売特有の気配り(ルール)であり、非常に面白く読めた。

本作も連続殺人になるが、どちらも同じトリックが使用されている。
自殺に見せかけるための密室殺人には一応に説得力があるが、ただ密室トリックを思いついたからあてがっただけという印象がぬぐえない。
また、現場にトリックの痕跡が残ってしまうという欠点もあり、密室にしたため犯人は痕跡の回収が行えず、自分の首を自分で締めているような矛盾が生じてしまっている。(工夫すれば回収することも可能だったのでは?)
その欠点を警察が気づかなかったことも不自然で、探偵役の二人の推理も、推理というよりも推測と思い付きの域を出ず説得力がない。
終盤の意外な展開もどこかしら適当な幕切れのようにも思え、都合の良さが目立った。

花のアリバイ

「花屋敷」から別の店に移ることになったマコ。
新たな職場「舞姫」で働き始めたが、勤務先の候補だった「夜間飛行」のホステスが車内で殺害される。

最終章は密室ではなくタイトル通りのアリバイ物。
密室トリックは伏線と推理を繋げることが困難だといわれているが、アリバイ崩しではその欠点が解消され、本作も伏線から推理が行われる正統派の本格推理となっている。
アリバイトリックの一つに「犯行時刻を誤認させる」タイプがあるが、本作はそれを最も簡略したトリックであるため、正直なところとしてそれほど感心するものではなかった。
本作の長所はトリックの伏線をタイトルに絡ませたところだろう。
読み終えて改めて知るタイトルと内容の合致、素晴らしいと思う。

ホステスクラブに来る客は、医者や政治家、会社社長であるため、その客の年収や納税金の大小を調べるため、ホステスには年鑑が必須と書かれている。
資産家の懐具合はホステスの重要な関心ごとであるのだから当然と言えば当然だが、あの華やかな職業に身を置く女たちが、家でこっそりと分厚い年鑑を読んでいるとはだれが想像できるだろうか。
これも作者が現役のホステスから聞いた「生」の声なのかもしれない。