四次元の殺人 SFミステリー傑作選(石川喬司編)

ミステリー作家とSF作家、扱うジャンルが隣り合っているのかはわかりませんが、この両ジャンルに創作の手を広げる作家は意外と多い。
本書はそんな作家の二足の草鞋の結果を知ることができる、広い意味でのSFミステリーを収録したアンソロジー。
広い意味というのは、謎や気味の悪さ、奇妙さを扱うことについてはミステリーと同じですが、SF要素については特に限定されているわけではなく、まさに何でもありの設定ということです。
宇宙、超能力、仮想世界、未来、ロボット、幽霊や魂、精神世界、科学等、これらが少しでも扱われていれば、何を書いてもSFになってしまうといった具合です。
何が出てくるかも想像できないという混沌とした作風も、SFの魅力の一つと言えます。

私はSFにほとんど触れたことがない初心者ですが、作中の出来事をどこまで読み手に納得させられるか、という点にミステリーとの違いがあるのではないかと思います。
ミステリーは一応の理屈や論理をもって読者に訴えかけて理解を求めることを必要としますが、SFにはそのようなわずったらしいものはありません。
どのようにストーリーを変化させることもできますし、結末につじつま合わせをする必要もありません。
支離滅裂なストーリーでも問題なく読ませるのがSFであり、これは同ジャンルの長所でもあり短所でもあるような気もします。

気に入ったのは、殺人者(豊田有恒)や邪悪の視線(筒井康隆)といったわかりやすく読みやすい作品。
特に殺人者は、収録作中最もSFっぽいミステリーなのではないでしょうか。
振動魔(海野十三)は科学小説という感じですが、トリックに不思議と説得力があり、読み直してみてもやっぱり面白かった。
いまいちいただけないのが抒情歌(川端康成)で、SFとして本書に収録できるジャンルなのかはともかく、この手の作風は読むのが苦痛だった。

  • 写真の女(小松左京)
  • 振動魔(海野十三)
  • 過去の女(生島治郎)
  • 凶行前六十年(都筑道夫)
  • 殺人者(豊田有恒)
  • 抒情歌(川端康成)
  • 夢の底から来た男(半村良)
  • 鏡地獄(江戸川乱歩)
  • 提灯(石川喬司)
  • 邪悪の視線(筒井康隆)
  • 門のある家(星新一)
  • R62号の発明(安部公房)
  • 虫が好かない(佐野洋)
  • オラン・ペンデクの復讐(香山滋)
  • 標的都市(田中光二)
写真の女(小松左京)

一人の男が一枚の写真を拾う。
そこには性行為中の女の恍惚とした表情が映し出されていた。

前半は男の写真に対して思うことが長々と連なるが、翌日に男は意外な経験をすることになり、それから長い年月が経過した結末に、突如として新たな世界観が誕生していたことを読者は知ることになる。
SFは設定、過程、結末を一貫して連続させる必要はないが、本作のような(読み手を置いてけぼりにする)とんでもない終わり方をする作品の場合、どう捉えればよいのかがわからない。
ミステリーならそれなりに説得力が必要な意外な結末も、SFであれば理屈は不要、とことんあっけにとられろということなのか。

ミステリーでもSFでもない全く別のジャンルのようにも思えるが、どちらにも小指だけでぶら下がっているようなきわどいバランスの下にあるような印象を受けた。

振動魔(海野十三)

鮎川哲也・島田荘司編集のミステリーの愉しみ第一巻で既読だが再読することに。

妊娠した不倫相手の子供を堕ろすため、ある化学実験を試行錯誤する男の話。
薬物にも物理的な手段にも目もくれず、ある現象を利用するという点が素晴らしい。
それが実行可能であるかは不明だが、どことなく可能であるかのような明快な根拠を持ち出しているところに、作者特有の奇想を感じずにはいられない。
前半の科学要素と結末のミステリー要素の見事な融合、まさに科学探偵小説の名にふさわしい傑作だった。

どこで読んだかは記憶にないが、戦前の中絶は厳しく処罰されていた(らしい)ので、本作を執筆・発表するに特に問題がなかったのかが気になるところ。
戦前の作品には検閲による伏字が使われたこともあった(木々高太郎の「睡り人形」等)ので、そこらへんの影響を受けなかったのだろうか。

過去の女(生島治郎)

どんな女でも虜にできる色男の前に、一人の女が現れる。
目が合った瞬間に意気投合した両者はホテルへ直行するが...。

ある概念の逆説を謎に見立てた作品。
少ないページ数の中に必要なものだけ濃縮したという感じで、余計な部分は一切ないという超短編のお手本のようだった。

凶行前六十年(都筑道夫)

未来から来た刑事型ロボットにより、60年後に殺害されることを知らされた男。
未来の殺人犯は時間跳躍によりこの時代に来ており、過去の自分と接触するであろうことをロボットは告げる。

時間跳躍と死の予言をスラプスティックにかき混ぜたような作風。
唐突に訪れるSFらしいオチが印象深いが、後半を包む不可解な設定も相まって理解に苦しんだ。
編者はこの落ちを侵略オチとしているが、最後の一文から素直にそう受け取れない。

殺人者(豊田有恒)

宇宙船アリアケに搭乗していた幼い子供レイジが殺された。
レイジは死の間際、同じ宇宙船に乗船してたある人物の名を告げた。

SFミステリー傑作選という本書の作品の中で、最もSFミステリーしている作品。
ダイイングメッセージからの犯人当てというミステリー要素に加え、宇宙船、○○第●十惑星、跳躍航法、三次元四次元といったスペースSFの単語が所狭しと登場する。
造語だらけのSF単語であるも、それらを特に問題なく理解できる描写とテンポよく進むストーリー、犯人の正体はややSFじみているが、推理要素も含めてまったく違和感と無理のないプロットに驚いた。
犯人の犯行動機もミステリーでは全く通用しないものであるが、ここまで近未来の世界観が構築されていれば、こともなにげに設定に溶け込ますことができるものかと感嘆のほかない。

抒情歌(川端康成)

編者は本作をテレパシーを用いた犯罪小説とみることができるとしているが、それはかなり怪しいのではないかと思う。
確かに透視やらテレパシーやら虫の知らせやら、作中の女は超能力のような不思議な力を持っているらしいが、これをSFやミステリーに定義してしまっては危険なことこの上ない。
どんなささいな事件でも登場させれば、これすなわちミステリーと言っているようなものだ。

SFやミステリーは娯楽性があるからこそ面白く楽しいという一面がある。
作者は自分の創作がどのようなものであるかを読者に様々な方法でアプローチし、作品を楽しんでもらおうと試行錯誤を繰り返しているはずである。
本作の場合、作中の世界観の説明がなく、ヒロインらしき女の境遇しか読者に情報が与えられていない。
わかっていることは、作中の女の母親はすでに亡くなっていることと、愛した男性も自分から離れそして死んでしまったということだけである。

本作は、自分を棄て他の女と一緒になりそして死んでしまった男を思う女の哀愁を一人称で描写した文学作品であり、超能力の他、キリスト教と仏教の宗教観、ギリシャ神話、輪廻転生、その他哲学思想が衒学的に羅列されている。
様々な話が数行ほどにわたって語られ、次の行から全く別の話になるため、頭から尻尾まで読み通しても話の全貌が見えてこず、多くのことが理解できないまま作品を読み終えることになる。
女は一体何の話をしているのだろうか。
ペダンティックという点で類似している黒死館殺人事件やドグラ・マグラの方がまだわかりやすく、興味も持てる作品だった。

夢の底から来た男(半村良)

普段あまり手に取らない作者の作品を読むことができるというところが、アンソロジーの良いところの一つでもある。
半村良は伝奇小説をはじめとする架空の世界を描いた作品が多く、ミステリーも書いてはいるが、今のところ手に取ったことはない。
本作もSFである以上空想の話なのだが、サスペンスを駆り立てるような鬼気迫る絶妙な描写で、最後までテンポよく読み終えることができた。
主人公の境遇や日常がわかりやすく記述され、家族との会話や同僚の不自然な言動等、伏線を張りながら最後に訪れる意外な真相で一気に世界観が理解できるような、いわゆるどんでん返しの趣向が巧みに使われている。
こういう趣向を凝らした作品にあまり接した経験がないため、より一層興味深く楽しめた。

鏡地獄(江戸川乱歩)

アンソロジーの魅力として、普段読むことができない作品と出会えるという点があるが、江戸川乱歩となると知名度が高すぎて、中々読むことができないのは随筆やエッセイ等だろう。
今現在でも長編短編問わず新装版やら再版やらで入手することは容易なのだから、そういう意味でアンソロジーに加えるのはいかがなものかと。
実際に本作もすでに読んでいる。
でもせっかくだから再読することにする。

書かれてから半世紀以上が経過しているにもかかわらず、古びることのないわかりやすい文体だと思う。
本作は鏡の魔力に取りつかれた男の狂気を綴った話で、作者自身も鏡やら万華鏡やらレンズやらに熱心だったように思う。
乱歩の好奇心が具現化した、いかにもな作風になっている。

戦前と戦後間もない間の探偵小説の多くは本作のような気味の悪い題材を扱ったものが多かった。
一般的にこれは乱歩の影響下にあるといわれているが、作品一つ一つを読んでいくとそうあながち悪いものではない。
乱歩好みの探偵小説から脱却を試みた結果、ハードボイルドやら社会派推理小説やらが誕生した、とは思わないが、乱歩の作風に沿うかそのまた逆を行くかという点で、少なくとも当時の作家たちの創作意欲の原動力になっていたことは間違いないと思う。
そう考えると、本作のような人間の狂気を描く乱歩の作品全般は、ミステリージャンルの多角化の石碑となりうる気がする。

提灯(石川喬司)

亡くなった人の魂の依代を提灯に見立てショート・ショート・ホラー。
これをSFミステリとするには違和感があるが、なにせ本書の編者の作品だからしかたがない。
どのような作品もSFとみることができる、という言葉が本書の巻末に載っているが、本作もそれに近いものだろう。
SFとはなにかという問いは、その道専門の作家であっても明確ではないということか。

邪悪の視線(筒井康隆)

テレパシー能力を持つ七瀬をヒロインとした連作「家族八景」「七瀬ふたたび」の中の一作。
生活のためホステスを勤める七瀬の前に、透視能力を持つ卑劣な男が現れ対決することになる。
テレパシーとクレアボヤンス、どちらも戦い向きでない超能力だがどちらが強いのか。

超能力者同士の戦い(?)という設定が漫画やアニメを連想させる。
能力者バトル物の漫画が好きであれば、本作も好意的に見ることができるかもしれない。
ところどころに奇妙な表現方法を用いた個性的な文体が特徴的で、いかにも革新的なこの作者らしい。

サ〇〇〇〇〇スの前では、テレパシーもクレアボヤンスも非戦闘向きの能力なのだなと再認識した。

門のある家(星新一)

本作はショート・ショートではなく普通の短編。
門のある家に迷い込んだ男が、家の住人に主人と間違われて家で暮らすことになる。
SFを少し不思議な(sukoshi fushigina)と略することもできるが、本編はまさにその略し方がぴったりと合う作風で、家を取り巻く異様な空間の存在を客観的に感じ取ることができる者のみ、空間内で流れる時間に心地よさを感じるという、不思議な論理の下で成り立つ構成となっている。

R62号の発明(安部公房)

ロボットに改造された自殺志願者の末路を描く。
ロボットは人間に害を与えないというアシモフ流の工学理念と異なり、ロボットとなった改造人間が自身を解雇した会社に復讐するためにある発明をするというパラドックスな一面も取り入れている。

人工的に製造された労働力がテクノロジーとして人間及び人間社会に取り入れられた場合、便利さや利益以外をもたらす可能性があることへの警告という点に、ロボットや近未来を舞台にしたSFらしい逆説的な論理があるようにも思える。
R62号のようなロボット、つまり自ら考え理解することが可能な人造人間的なロボットの存在が実現できるようになったら、その未来に必ずしも明るい人間社会は存在するとは限らない。

あの電気羊やロ〇〇〇〇Xのような、ロボットによる秩序の破壊と反乱が発生する世界、それを粛清する新しいタイプのロボットの存在、粛清するロボットは自分の行いが本当に正しいのかを自問自答する...。
科学力が高すぎるということも困り様ということかもしれない。

虫が好かない(佐野洋)

コラム「推理日記」で、ストーリー展開の論理性と描写方法について徹底した立場を示していたこの作者にしては珍しい非ミステリー型の作品。
佐野洋の作品にはもともとミステリー要素があるとはいいにくいが、従来の作風とはかなり違っていることがわかる。
また同コラムにて、ミステリーにおける事実に反する描写(警察が捜査する際の手続き、医科学知識、名探偵の存在の有無)に難癖をつけていたが、本作では生まれる前に魂が存在する精神世界について扱っている。
SFとして読めばこのような世界観には違和感はないが、何が良くて何が悪いのかは結局は読み手の判断にゆだねられてしまうという、非常に不安定な作風のような気がする。

オラン・ペンデクの復讐(香山滋)

この作者は探偵小説家ではあったが、トリックだの論理だのには目もくれず、古代生物や人類未到達の幻の秘境といった想像上の産物にロマン性を創作の軸にしていた。
その一端が巨大怪獣ゴジラであり、香山滋は知らずともゴジラは知ってるという人がほとんどだと思う。
本作は人類学者の権威が発見した新人類オラン・ペンデクにまつわる怪奇事件を綴ったもので、作者のデビュー作となる。

本作で驚くべきなのは、架空の新人類オラン・ペンデクを取り巻く、さもありえそうな描写にあると思う。
ありもしない創造の産物をここまで立体的に形作り、あたかも実際に存在するかの如く書き連ねて読者をひきつける表現力は、本書にみならず(本作をSFとするならば)SFジャンル随一といってもいい。
ミステリーとしてみると腑に落ちない点がところどころあるが、作者自身が創作に論理性を考慮していないことを考えると、自然とどうでもよくなってくる。

香山さんの正体は実は異星人で、彼が香山さんの姿をして物書きをしていたのではないか、とミステリー評論家の中島河太郎氏が論じたことがある。
確かに香山滋の作品には、独特のロマンチシズムと空想生物への望郷が入り混じっている気がする。

標的都市(田中光二)

近未来の日本(?)を舞台に、人が人を狩るハンティングゲームの攻防を描いた冒険サスペンス。
人をハントするという過激なスポーツが法律上認められた世界で、ある理由から大金を要するようになった男が、自身を狩るハンターから逃げ延びるという設定。
生き残れば莫大な掛け金が手には入れるが、ミスをすればすなわち死あるのみ。
ハンターが獲物を殺しても、ゲーム中での行為ということで殺人にならないというハイリスクハイリターンで危険なゲームである。

架空世界での冒険SFといった感じで、常に展開が読者の先を上回るスピーディでテンポ良いストーリー性が心地よい。
死と隣り合わせの中、必死にハンターから逃げようとする主人公の鼓動が聞こえてきそうなサスペンスも持ち合わせており、(ストーリー上死ぬことはないと分かっていても)つい熱くなってしまうところも本作の魅力。

しかしながら、最後で意外な行動に出るハンターやよくわからない理由で助けてくれる一般人(?)等、話の中の根本的な部分に設定とは真逆の甘さが目立つのが欠点。
ハンターの攻撃に巻き込まれる可能性がありながらも、狩られる側である主人公を助けてくれる謎の美女という時点で違和感しか感じられない。
ゲームや漫画のような世界観であることを鑑みるとそれほどおかしくはないが、序盤にてシビアなハンティングゲームの説明をしておきながら、途中でこのような路線をしいてしまえば、いかにも作り物めいた創作物の悪い部分がでてしまうのではないか。

本作はまだ先が続きがありそうな感じで話が終わる。
もしかしたら先の話があるのかもしれない。