「探偵倶楽部」傑作選 甦る推理雑誌7(ミステリー文学資料館)

同雑誌に掲載された短編を集めたアンソロジー。
時代が時代だけに、収録された作品はなかなかに珍しいものばかり。
作品一つ一つはまさにマニア垂涎といった感じでしょう。

すべて"探偵小説"にカテゴライズされている作品ですが、いくつか"推理小説"と見ることができる作品があることがうれしいところ。
そのような趣向でいくと、密室の殺人、検屍医、探偵小説作家あたりが面白いのではないかと。

収録作品は以下の通り。

  • 水棲人(香山滋)
  • 密室の殺人(岡田鯱彦)
  • 検屍医(島田一男)
  • 人間を二人も(大河内常平)
  • 夢の中の顔(宮野叢子)
  • 遺言映画(夢座海二)
  • 探偵小説作家(楠田匡介)
  • りんご裁判(土屋隆夫)
  • 舶来幻術師(日影丈吉)
  • 終幕殺人事件(谿溪太郎)
  • 絞刑吏(山村正夫)
水棲人(1950年8月号)

密林生い茂るジャングルの湖に生息する人魚のような謎の生命体、水棲人。
突然終わりを迎える瞬間に唖然とさせられるが、女性ならではの鋭い観察力に秘境小説というジャンルでありながら説得力を感じさせる。

密室の殺人(1950年10月号)

「鯱先生シリーズ」のうちの一作で、盗みはするが人殺しはしない怪盗鯱先生が登場する。
トリック自体やや都合のよさが目立つが良くとらえれば結構論理的。

検屍医(1951年11月号)

酒飲みでグータラだが鋭い観察力を持つ検屍医を軽やかなテンポで描いており、意外なほど読みやすい。
あるものに異常な愛情を注ぐ変質狂が登場するが不健全さはまるでない。
その割には癖の強いアクセントを残しており印象深い。

人間を二人も(1952年3月号)

実は初めての大河内常平。
作者の得意分野はやくざものや任侠ものであり、本作も時代背景は当時のままだと思われるが、読んでいくとまるで江戸を舞台にした時代劇のよう。
犯行描写がやけにリアルなのは倒叙形式であるからだと思われる。
犯行を重ねるごとに脅迫概念に襲われ、動機さえも希薄になっていく構造に迫力を感じる。

夢の中の顔(1953年2月号)

文学派の作者にふさわしく情緒を漂わす文体が特徴で、姉弟の手紙のやり取りからストーリーが進む構成も一役買っていると思われる。
トリックや論理を主張する作品ではないけれど、手紙に隠された虚実が奇妙な余韻を残す。

遺言映画(1953年3月)

「消えた貨車」以来、久々に読んだ夢座海二。
フィルムに記録された遺言を発端とした殺人と、細工された遺言フィルムの謎解きが新鮮。
映画プロデューサーの作者らしい構成ですが、フィルムの映像と音声に関するトリックが結構難解、というよりもわからない。
でも着想は面白い。

探偵小説作家(1953年11月)

作者といえば密室ですが、本作もご希望の通りに(やっぱり)密室もの。
舞台設定が面白く、すんなりストーリーに引きこませる文体も素晴らしい。

りんご裁判(1954年2月号)

短い枚数の中にきっちりと手掛かりと伏線をちりばめた本格推理の秀作。
いかにも土屋隆夫らしい理路整然とした論理と証拠の決め手が綺麗に整っている。
タイトルは最後まで読めばわかるという遊び心も好印象。

舶来幻術師(1954年3月号)

ハイカラ右京を主人公とするシリーズ第一作で、明治時代の興行客寄せを舞台とした作品。
乱歩好みの狂人癖が印象深く、トリックやら犯人の正体やらよりもインパクトがある。

終幕殺人事件(1955年4月号)

ホセがカルメンを殺害するまでの悲劇を扱った一種の倒叙もの。
舞台そでで待機していたカルメンを殺害できる人物は一人もいないはずだが、ホセがそれをやってのけたことへの不可能犯罪ものとみることができますが、推理要素よりも情熱的な文体で苦しみ悩むホセを描写したことが本作の特徴のように思います。
カルメンが死に際の言葉の意味も良く考えられており、終わり方が非常に美しい。

絞刑吏(1955年4月号)

他人に意識を憑依する不思議な能力を持つ老俳優の話。
SFやファンタジーで比較的良く見る設定ですが、それを探偵小説にアレンジした面白みのある構成となっています。
ミステリー作家として多彩な作風を持つ作者らしい作品といえます。

作中にさらっととんでもない死体処理が行われますが、それを恐怖せず平然と行えるのは他人に憑依した自分であるからでしょう。
しかし恐怖を感じるはずのない憑依という能力にも落とし穴があり、老俳優はそれをある人物に憑依することで知ることになります。
まさにその一瞬の恐怖の描写は凄味があり、恐怖小説として完成度の高いものと感じました。