密室の世界

最後の密室(土屋隆夫)

収録:山口雅也の本格ミステリ・アンソロジー(角川文庫)、小説離婚学入門(光文社文庫)、最後の密室(廣済堂文庫)

密室学入門と改題(?)されている。
論理的な本格推理が印象深い作者ですが、密室を扱ったものは案外少ない。
それは密室が論理外の産物だからでしょうか。

トリックを駆使した密室物、というわけでなくパロディー調の好短編。
犯人に一矢報いた被害者の"ある行動"がトリックの鍵となる。
死に際に口を歪ませた(ように見えた)執念に、心地よいブラックさを感じる。

作者の多彩さに拍車をかけた秀作。

赤い密室(鮎川哲也)

収録:硝子の塔(光文社文庫)、下り"はつかり"(創元推理文庫)

解剖部屋でのバラバラ殺人という猟奇性ふんだんな本作。
死体をバラバラにする理由にここまで意味を持たせるとは思わなかった。
「困難は分割せよ」が体現されていますが、細かいミスリードがふんだんに使われており、ただ困難を分割したのでは到底あり得ません。
水と油の如き、密室と論理性を両立させたすんごい秀作。

他殺にしてくれ(鮎川哲也)

収録:硝子の塔(光文社文庫)、下り"はつかり"(創元推理文庫)

自室で銃殺された男、扉や窓には鍵がかかっているという密室のお手本のような状況で、現場の状況から自殺と思われる。
たしかに密室といえば密室ですが、その密室の解明はあくまでその場しのぎのあり合わせ。
本作の要は密室解明の後にあります。

おそらく作者は密室をメインに執筆したつもりはなかったのでしょう。
そんなメインでない密室にでさえ、機械的密室トリックを使わなかった「鮎川流密室」のこだわりを感じます。
本作の密室トリックは時間差を利用した心理錯覚による密室ですが、本作には密室以外のもう一つの時間差トリックが使われています。

折蘆(木々高太郎)

収録:日本探偵小説集7 木々高太郎集(創元推理文庫)

作者にしては珍しい本格推理風の長編作品。
鍵のかかった部屋で老いた父親が殺され、嫁が瀕死の状態で発見されるが、抱き起した夫を「卑怯者」と罵り力尽きてしまう。
密室内に複数の被害者がいたという点からすると、少しバリュエーションが加えられた密室殺人ということになるが...。

しかしながら、あの木々高太郎が真っ向から密室トリックを使うはずがなく、密室殺人を意識しながら読んでいくと少し肩透かしをくらうのではないかと。

わが女学生時代の罪(木々高太郎)

収録:日本探偵小説集7 木々高太郎集(創元推理文庫)

密室殺人ではないけれど、意表をついた毒殺トリックに新鮮味がある木々高太郎の長編作品。
部屋で死んだ画家の死因は中毒死、毒を体内に取り入れたその経由がわからない。
室内にあるストーブをつけると青酸毒が発生することを、精神科医と司法主任が中毒死しそうになりながらも発見するが、ストーブ自体に問題はなく、熱気がなくなるにつれ毒も弱まっていく。
では一体、毒の発生源はどこかなのか。

そもそも作風自体が謎を解き明かすタイプではないため、画家殺しの犯人や動機の存在は突風のように過ぎ去ってしまう。
そんな作風でも存在感を示すこのトリックは、個人的にかなり小気味のいいものに思える。

朝めしご用心(鮎川哲也)

収録:本格ミステリコレクション4 鮎川哲也名作選 冷凍人間(河出文庫)

鮎川哲也にしてはものすごく珍しいバカミス風の作品。
入れ歯かつハゲのみ殺害することができるトリックという時点でまともでない。
なんという入れ歯ハゲキラー...。

女ふたりの密室(大谷羊太郎)

収録:真夜中の殺意(新潮文庫)

密室には違いないが密室トリックという感じではなく、登場人物の思惑が交差した結果こうなったという感じ。
トリックの性質を問うものではないため、意外性や驚きは感じられない。

二秒間の死角(大谷羊太郎)

収録:真夜中の殺意(新潮文庫)

心理錯覚による人間消失を扱った準密室系。
結果からしたら本作にも都合の良さを感じるが、ある場所から消えた犯人という筋書きと盲点を利用したという点で個人的には気に入っている。

夜警殺し(大谷羊太郎)

収録:真夜中の殺意(新潮文庫)

これまた人間消失を扱った準密室系の作品。
建物の構造をいまいち把握できないため、種明かしをされても説得力に欠けるのが玉にキズ。

偽装自殺(大谷羊太郎)

収録:真夜中の殺意(新潮文庫)

密室ではあるが密室というカテゴリーに分類にするには惜しいプロット。
純粋に作品としての出来の良いとしかいえない。
ケチをつけるとすれば真相の意外性だが、意外な真実にケチをつけてどうするのか。
短編サスペンスの見本のような秀作。

殺意の二重奏(大谷羊太郎)

収録:真夜中の殺意(新潮文庫)

密室トリックの性質が心理的であり、かつトリックに意外性と説得力がある。
舞台が音楽スタジオというところが元バンドマンの作者らしく、本格推理には不向きだが軽めのアクションシーンも楽しめるというサービス精神旺盛な作品。
ここまで面倒な方法で殺しをやってのける殺し屋というのも珍しい。

華やかな密室(山村美紗)

収録:華やかな密室 京都殺人模様(徳間文庫)

ドアチェーンを利用したトリック。
証人にチェーンがかかっていることをさりげなく確認させる必要があり、同時にチェーンに細工を施す必要があるため、機械的といえば機械的といえる。

細工自体は単純で分かりやすい。

夜の不死蝶(山村美紗)

収録:華やかな密室 京都殺人模様(徳間文庫)

監視カメラで見張られた部屋への侵入をメイントリックとしている。
そんな監視カメラがあるのか、と疑問に思う点もあるが、部屋とカメラの位置関係が文体のみでは把握しにくく、ただトリックの説明で終わった印象を受けた。
監視カメラで見張られた部屋に出入りするとしたら、ある程度アンフェアなトリックを使わなければできないのが常だと思う。

死の同伴者(山村美紗)

収録:華やかな密室 京都殺人模様(徳間文庫)

密室にする理由はわかるが、密室トリック御用達の○と○を使ったものであり、ウィーンウィーンと機械音がするほどの機械トリックなのがいただけない。
証拠が現場に残ってまで、密室に固執する必要はあるのだろうか。